ハイスペック・バカ

「占い師・琴葉野彩華は占わない」感想文

 僕は音楽について全く素養がありません。
 小さい頃から音楽を聴く装置を所持した事がなく、高校になったくらいにようやくCDラジカセを中古で手に入れたくらい。あまり熱心にCDを買ったりする事もなく、深夜ラジオで気に入ったアーティストのアルバムを一枚買う程度。唯一揃えたCDは丹下桜さんだけです。キモオタですみません。
 なので音楽について語りたい時、専門用語が使えません。技術的な事から攻めることが出来ません。
 出来る事と言えば、どのように感動したか、どんな風に僕が思ったか、そういった事くらいです。

 そもそも僕が専門用語を駆使したレビューや解説が出来るジャンルなんかないのですが。
 だから僕はブログで何か面白いものを見た、読んだ、聞いた時にはタイトルや文章中に「感想文」という表現をします。レビューでも解説でもなく、感想を書いているだけです。

 そんな僕なので以下の文章もやっぱり感想文です。空リプのような届かないラブレターです。だけどそれで一人でもいいので感想を共有してくれる人がいれば嬉しいし、一冊でも売れてくれれば気持ち良いので、久しぶりに書いてみようと思います。

 読んだのは鳩見すた先生の新作です。
 鳩見すた先生についてはざっくり説明すれば第21回電撃大賞において大賞を受賞した作家で、「ひとつ海のパラスアテナ」「この大陸で、フィジカは悪い薬師だった」(両方とも電撃文庫)の作者です。両方とも感想文が過去のログにありますので読んで下さい。そして買って下さい。
 今回は新作、アスキーメディアワークスから出版された単行本「占い師琴葉野彩華は占わない」です。
 ローソンHMVの企画で、ちょっと前までローチケHMVという、ローソン店内で無料配布しているフリーペーパーで連載されていた作品です。短編ですが、その内の一章だけがペーパーで読めて、続きはwebで、というスタイルでした。毎月の連載を追うというのは最近ではほとんどやらない(小説に至っては中一コース連載小説以来)ので楽しかったです。
 で、それが今回まとまって一冊になりました。最終話は書き下ろしです。

 僕はあまり本を読まず、特にミステリに関してはほとんど読んでいません。赤川次郎すら数冊しか読んだことがないし、他にはかまいたちの夜にハマった頃に我孫子武丸の本を何冊か読んだ程度。音楽のジャンル用語であるハウスとかスカとかボサノバとかいった単語の意味がよくわかってないのと同じように、本格とか新本格とか日常ミステリとか、そもそもミステリーなのかミステリなのか正しい表記がどっちなのかもわからない程度の人間です。あ、アニメ見てから氷菓は読みました。アニメで結末を知ってから読むミステリというのもちょっとどうかと思いますが。

 という訳でミステリに関する知識がほとんどないので、技巧的にここがうまい!とかこういう流れで○○を使うのか!みたいな、このミステリーが凄いみたいな紹介文は書けません。このミステリーが凄いを読んだことがないのでそういう紹介をするのかは知りませんが。
 まあ無知をあまりに強調しすぎるのも品がないのでこの辺でやめておきましょう。久しぶりに感想文を書こうとすると本題に入るまでが長くなりすぎますね。あまりよい傾向ではないかもしれません。

 とりあえずローチケHMVで四話まで連載されていたので、そこまで読んでいた人もいるかもしれません。たった一話追加されただけで金を払う価値があるだろうか、エピローグ的なものとか普通に(これまでの話と同じ、彼らの日常とその事件を)描かれたものが一つ追加されるだけなんじゃないのとか思う人もいるかもしれませんので先に書いておきます。
 五話が本編です。
 いや、ごめんそれは言い過ぎた。別に四話までが序章だとか、ここまでの価値観を根底から覆す大どんでん返しが五話に!とかそういう程の事はありません。というかこの大どんでん返しを紹介文に使うのってどうなんですかね。最初から「この辺の価値観が最後に崩されるんだろ?」と思いながら読むことになるのはネタバレにならないんですかね。昔からこの褒め方があまり好きではないのです。可能な限り読む人に新鮮な驚きを味わって欲しいです。僕が味わったこの驚きは、僕が無知故に感じられたものですから、それに近い状態で驚いて欲しいのです(他の読者が僕程無知であるとは到底思えませんが)。
 もちろん、それだとまず読み始める動機が薄くなってしまうわけで、ある程度のネタバレがなければ今時星の数ほど出版され続ける作品の中で一つを選ぶことが難しいのはわかっております。おりますとも。

 まあ数人が読めばせいぜいのこのブログでどんだけ熱く語った所で売り上げに貢献するものでもないでしょうけど。その数人が買ってくれれば、中には僕の数億倍の影響力を持った人がいるかもしれませんからね。そうなればバタフライエフェクトのような効果が発生するかも知れません。宝くじで一等を当てるような確率かもしれませんが、それは交通事故にあう確率より低いかもしれませんが、ゼロよりはマシだと思うのでこのまま続けようと思います。このブログのおかげで売れるようになったら焼き肉の一つもおごってもらえるかもしれないじゃないですか(台無し)。

 というかオタクは面白いものを知った時にそれを広めてより共有し、みんなで語りたくなるものなのです。Twitterのリツイート機能はその辺がうまく働いた感じがします。

 いい加減に本題に入りましょうかね。
 とりあえず読んだことない人向けに、ざっくりとしたあらすじを。僕はこれが一番苦手です。

 大学生になった主人公菱橋蓮太郎くんは、九つ年上の叔母、琴葉野彩華の家に居候をします。彼女の職業は占い師ですが、タイトルの通り占いません。仕事をしないのではなく、彼女は探偵だった経歴を活用して、占うのではなく観察する事で依頼人の考えている事やその人物像を言い当てるのです。
 普段は自堕落な生活をする彼女に、助手として働きつつ身の回りの世話をする蓮太郎くん。
 この二人に舞い込む事件を描くのがこの作品です。
 ライトミステリと書かれている通り、殺人事件などは起こりません。占い師に占いを頼みに来る人に起こる程度の事件というかトラブルを解決してあげる話です。
 彩華さんは普段は本当にだらだらしていてだらしなくて無防備でスマホゲーに課金ばかりしている駄目な人ですが、実際には玄関のドアを叩かれてから席について自分の名前を書く所までで依頼人の人となりがほとんど読み取れてしまう程の観察力を持っています。彼女の占いは「百パーセント『満足』する占い」です。当てるのではなく満足させる。

 もともと占いは「迷っている人の背中を押してあげる」事の出来るカウンセラー的な要素があると思っています。神秘の世界ではなく、ほとんどが確率・統計の世界であり、状況さえわかれば導き出される答えはある程度絞られます。悩んでしまって視野が狭くなっていると見えなくなって行く道筋を、占いという「人ならざる力のように見えるもの」の威を借りて、人が人を導く事を肯定する行為なのだと思います。
 占いの名称を「恋愛アドバイザー」とか「人生相談アドバイザー」とかに変えた上で有料にしたら、何となく提案のふりをして何か売りつけられるのではないかと構える人が出てきそうじゃありませんか。そんな人僕だけですか。
 占うという事、当たるかどうかもわからない事に自分の未来を委ねる事で、可能性という博打に出る事で、逆に人は安心してその道筋を見つけられるのではないかと思います。

 あくまで個人的な感想です。

 彩華さんはその観察眼で人物像を読み取り、状況や未来を予測し、依頼人が満足出来る答えを出してあげます。既に発生したトラブルよりも、これから発生しそうな事を未然に防ぐ事が出来るのも、占いという要素を入れているからで、この「未来の事件を回避する」タイプのお話は、ミステリの中でも珍しいのではないかと思います(寡聞な僕がいうことなのであまり信用はおけませんが)。
 蓮太郎くんは、家事が出来て、素直で、彩華さんに振り回される役所です。料理の描写は相変わらず細かくて、読む度に腹が減ります。
 ちょっと椎名高志先生のGS美神・極楽大作戦を思い出す関係です。蓮太郎くんは横島君みたいに煩悩にまみれてませんが。
 
 ライトミステリという事で、重篤な事件が起こるわけでもなく、日常の延長線上の、現実にも起こり得そうなトラブルがメインになります。そして作者自身も仰ってる通り、「軽く」読める作品です。
 軽く読めるというのはテーマの重さとか文体の重さとか、そういった部分にかかる言葉ではありますが、実際に読んでもらえればわかるのですが、適切な謎の提示、信頼出来ない語り手の存在、バランスの良い伏線配置と小憎らしい引きが全て充足される、「書く側はちっとも軽くない」軽い文章なのです。
 周囲にいる、「あまり普段気を遣わなくてもよい知人」というのがいた場合、その人は相手に気を遣わせないための努力と気遣いをしています。応対の仕方、返答の仕方、広い許容量など、相手が自分に対して「借り」が発生しないように心がけます。
 あなたが気を遣わない場合は、相手が何かしら気を遣っているはずです。
 だいたいそういう感じの、とても(軽く読めるために)計算された構成です。
 様々な所に伏線が貼られ、連作短編ですが過去の話から引っ張る事もあるので、何度も読んでみたくなる内容になっています。特に最終話を読むと、また一から読み返したくなります。

 という訳で本になる事でそれらが楽に出来るようになったので大変ありがたいのですよね。軽く読める分繰り返して読む事も苦にならないですし。

 最後まで読むというのはローチケHMVで書かれていた分でなく、最後の書き下ろしの五話も含みます。
 軽い内容の連作短編なので、書き下ろしの五話目といってもエピローグのような、ボーナスステージやエクストラステージ、または冒頭の音楽の話に合わせるならばボーナストラックのようなものを想像していました。目次には五話目の後にエピローグの項目もありませんでしたし。
 読み切り連載的な内容なので、「買ってくれた人へのごほうび」という感じの、彼らの日常はもっと続いて行くんだよというような感じの、それこそ「第五話」であると思っていたのです。

 しかし、この第五話は第五話であるけれど普通の第五話とは違って第五話なのです。全五話の中の第五話なのです。四、五話ではないし、零話でもない。見事な最終話なのです。
 実質的な最終話であり、彼らのかかえていた問題が解決する回であるため、読み進めれば進める程面白くなっていき、謎が解かれて行き、テンションは上がって行くので読む速度は上がって行くのですが、上がれば上がる程に読み終わる事、お話が終わってしまう事の寂しさを強烈に考えさせられます。続きは気になるけど読んでしまうと終わってしまうジレンマ。世界とキャラクターが気に入った時によく陥るのですが、今回もこれがとても悲しかったのです。
 終わりたくないし読み続けていたい。確実に左手を抑える力は不要になっていくのに、入って来る情報と頭の中で広がって行く情景はどんどんクライマックスに向けて盛り上がる。ブレーキの壊れた車に乗っているような、初めてのスキーでうっかり足を閉じて真っすぐ斜面を折り続けて加速が続いて行くような恐怖。ちなみにボーゲンでこれをやると、体感速度と実際の速度の落差に驚きます。自分では凄い速度で滑っているように思えるのですが、後で撮影されたビデオを見るとびっくりするくらい遅いのです。スノボだともっと凄いんじゃないかしら(地面に視線がより近いので)。

 話が逸れましたが、四話までローチケで読んでいた人には特に読んで欲しいです。これまでのお話が全てここに集結していきます。伏線も、物語も、何もかも。彼らの物語は見事に完結します。全てはこの五話のためにあったお話でした。あれも、これも、全てが。
 ここで使われるトリックも、やはり今までの総決算とでも言うべき内容です。
 この五話の存在がある事で、「占い師琴葉野彩華は占わない」は一冊の完成度を完璧なものにしたと思います。
 僕は蓮太郎君並に隠し事が出来ないタイプで、うまく文章で誤摩化しつつ興味を持たせる文章というのが書けないのでやめておきますが、四話まで読んでいた人なら納得のいく展開だと思います。

 実写で見てみたいなあ。映画でもドラマでもいいので。アニメよりは実写で見てみたい作品です。そう言いつつも俳優とか詳しくないのと未読の人に変なイメージ植え付けるのはよろしくないので希望キャストみたいな遊びは控えておきます。

 手軽な日常ミステリが読みたい、でもそれなりにちゃんとした謎を提示してくれる作品がいい、という人には是非読んで欲しい作品です。謎解きはディナーの後でとか氷菓とかあの辺が好きって人には「だったらこれも是非!」って感じで勧めたくなるのです(僕がそうだってだけです)。

 という訳で久しぶりに鳩見すた応援ブログの更新でした。みんなで読もう!僕はこれ続きが読みたい!シリーズ化して欲しい!そしてドラマ化とかして欲しい!


 
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