ハイスペック・バカ

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九井諒子のセカイについて

 
 九井諒子の世界は凄い。

 僕は中学生の頃にテーブルトークRPGに出会い、同時にファンタジー世界にはまっていった。ストーリーを紡ぐ事も楽しかったが、自分なりの世界を構築して行く事が楽しくなっていった。オリジナルの地図を作り、歴史を作り、種族を作り、モンスターを作る。次第にエスカレートしていって、色々な事を勉強しながら、どんどんとリアリティを重視するようになって、さらに構築を続けて行くと、次第にその世界はファンタジー世界でありながらファンタジックじゃなくなっていった。システマチックに世界の設定を構築して、魔法を数値化し、モンスターとそうでない動物の生態系のバランスや生息域について考慮する。現実の要素が浸食して行き、世界に謎はなくなり、胸を躍らせながら冒険していた世界は、いつのまにか夢を失った。設定オタクと言われるタイプの人間が陥る闇の一つだ。リアリティという言葉の罠。

 この作品群は、世界に確かなリアリティを感じるのだけど、リアリティの罠にはまっていない、幻想と現実の境界線のバランスが抜群にうまく成立している。作品集には、設定おたくでなくても、ファンタジーに少しはまった人なら考えるであろう疑問がそのままネタとして使われている。魔王を倒したあとの勇者の人生や、主のいなくなった魔王の城の扱い、幻獣を実際に生態系に組み込んだ場合にどうなるのか、など。そういうツボを押さえた所から話を展開するので、そこに感心するとともに、そこから導き出される作者の「解答」の説得力にも驚かされる。

 ちなみにこの作家の持ち味を一番わかりやすく表現しているのが、実は「竜の学校は山の上」という最初に出した単行本のあとがき漫画。

 金食い虫くんという作品で、とある男性が一円玉をざくざくとコーンフレークのように食べていて、一緒にいる女性は普通の食べ物を食べているというもの。お金を食べるという普通ではない人と一緒に暮らす普通の女性。味覚も価値観もまるで違う二人の会話劇。

 最初は「お金がおいしいのか?」と聞いてきた彼女に対し、「動物の死骸がおいしいのか?」と聞き返す彼。少し気まずくなったけど、お互いに反省して、両者の歩み寄りをはじめる。主に、彼のお金の味について語られる。
 「500円玉の方が一円玉より旨い。」
 「(今食べている)某国の紙幣は味はともかく安くて腹が膨れるから良い。食物繊維も採れるし。」

 聞いた所でまったくわからないのだけど、食物繊維のくだりだけは何となく理解出来た気がしつつ、なおも会話は続く。

 「高い方がおいしいのか?」
 「ならば一万円札は極上の味ということになるのか?」

 彼女の疑問に対して彼は答える。

 「旨い事は旨いけど、あれを食うなら、その一万円札で他のいいものを買った方が良いな、と思える程度のもの。」

 ここで初めて彼女は
 「わかる」
 と笑みをこぼす。

 たった2ページで、更に言えばたった一言ずつの会話で、男性の特異性と、女性の普通さを表現して、特異な世界を描きつつも、上手な落しどころで両者が理解し合えて話は終わる。

 この作家の作品は「わかりあう」という事をとても大事にしていて、異種族、異民族、人に限らずどんな相手でも最終的には分かり合う、またはそうあろうとする。
 金食い虫くんでは、まったく価値観の合わない二人が、話をして行く中で共通の価値観を見つけ出して、お互いの事を理解しあう。理解というか、根底にある同じ部分を見つけ出す。
 話し合えば、相手のことを想えば、きっとわかりあえう日が来る。そういう優しさに満ちた世界。それはとても心地よい空気で、こがわみさき先生の作品を思い出した。普通の恋愛や悩みを描く時に照れ隠しも込めて封入されるファンタジー的設定と、結局描かれるのは登場人物の素直な心という部分。ファンタジー要素の使い方が逆だけど、凄く通じる物があると思う。

 冒頭では、設定オタクの話をしたけど、設定についても面白い解釈をする。

 答えを出さないのだ。

 何故お金を食べるのか、という疑問には解答がない。なぜ竜がいるのか、なぜ魔王がいたのか、なぜケンタウロス(馬人)が存在しているのか、そういった部分にはほとんど触れられる事はない。設定オタクが忌み嫌う「それはそういうものだからそれでいいのだ」を地で行く展開だ。
 根底の部分は存在を丸ごと肯定して、それを前提としてリアリティを高める工夫を行っている。そうでないと話が成立しないし、それこそ「ファンタジー」ではなくなってしまう。ガンダムの世界のリアリティを追求しようとすると、そもそもモビルスーツの存在が不要になってしまうように(そこを割り切った上でリアリティを追求したのがガンダムセンチネルなのは有名な話だけど関係なさすぎるので割愛)。

 そう考えると、これらの作品群は、どれもファンタジーな世界ばかりであるにもかかわらず、設定が先ではなく、描きたい話やテーマが先にあるのだろうと思う。それまでに培ってきた知識であるとか、入念な下調べであるとか、そういった物があってあのリアリティを生み出してはいるものの、それらの設定をひけらかす、または押し付けるだけの(ストーリーとほとんど関係のない)コマや台詞が見当たらない。
 描きたいのはそこじゃないからだ。

 そういう説明を省いている分、少しだけ読者にファンタジー系の知識がある事を強いる部分はあるかもしれない。
 
 そんな訳で、少しファンタジーにはまった人で、少し中二病を抜けたあたりで、少し自分なりのファンタジー世界を妄想してみた人がいるのなら、きっと好きになれると思う。
 ファンタジーなお話が嫌いだというのでなければ、少しくらいは知っているという程度であっても十分楽しめると思うので、是非読んで頂きたい作品。おすすめ。

 
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