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「この大陸で、フィジカは悪い薬師だった」感想文


 ファンタジー作品を観た・読んだ時に、「こいつぁ強烈なファンタジーだぜ」と思うときと、そうでもない時があります。
 途中までいいなと思っていても、何かの拍子に冷めてしまう事もあります。
 逆に、それほど独特の世界観を持っていない作品であっても、最後まで冷める事なく、ファンタジー感を味わい続けられる作品も、もちろんあります。

 今回読んだ作品は、その後者に当たる作品でした。

 電撃文庫、鳩見すた著「この大陸で、フィジカは悪い薬師だった」
 (リンク先は公式サイト。試し読みも出来ます)

 その世界で一番勢力の強い宗教「エイル教」の信者にして、布教ともう一つの仕事を行う主人公アッシュは、その仕事、害獣退治がきっかけで一人の少女と出会います。害獣に返り討ちにあい、死にかけたアッシュは彼女に治療され、法外な治療費を請求されるというあまり良いとはいえない出会い。さらにその少女フィジカはエイル教の教えからすれば異端もいいところ。教典で害獣とされているモンスターを助け、自然の摂理に反する治療を行い、法外な治療費を請求する。
 助けてもらった恩と、異端者を確保しなければならない自身の職務の板挟みに合いながらフィジカに勝手に同行し続け、彼は次第にエイル教の教えだけでは成立しない、様々な世界の真実を知っていく。

 この作品は、それほど突飛な世界観を有しているわけではなく、日頃ファンタジーなRPGとかのゲームをやっていると何となく想像出来る、「日本人がよく想像する最大公約数的なファンタジー世界」に近いものを持っています。設定上最大の個性はエイル教という存在になるわけですが、ここはとてもしっかり作られていて、色々なオマージュや皮肉が混じっている上に、作品を動かす根幹ともなっています。
 作品で描きたい部分が「俺のファンタジー世界を観てくれ」ではないので、ここをあまり凝ったものにしないのは正解だと思います。むしろ我々の世界に存在する固有名詞を普通に使う(植物や料理などにオリジナルの名前をほとんど使っていない)事で、余計な部分で頭を使わずに澄むのは愚かな僕でもストーリーが頭に入りやすいのでありがたいくらいです。

 ではなぜこの作品で強烈にファンタジー感が味わえるのか。

 それは、この作品がファンタジーの世界の中で描かれているからです。
 まず、最近の異世界転生系に多い、ゲーム的な、メタフィクション的な構造やルールを一切持ち込んでいません(まあ、当たり前と言えば当たり前なのですが)。キャラクターが攻撃をする時に「スキル」を使用したりとか、「パラメーター」的なものがあったりとか、そういうものもありません。
 そして、登場人物全員が、ちゃんとその世界の中のルールに則って生きています。言動が、ちゃんとその世界の中でしか通用しないんですね。

 具体的な例を挙げましょう。
 これは他の作品で、ファンタジー世界に召還された主人公が活躍するタイプの小説のアニメを観ていたときの話です。
 その中では特にゲーム世界っぽい描写はなく、本当にファンタジーな世界を彷徨う感じがよく出ていたのですが、途中で出てきたキャラクターが、割と近代から現代にかけて台頭してきた価値観を持って、その辺の新しい言葉を使ってくるシーンがありました(僕が無知なだけで、古くから使われている言葉である可能性も十分あるので、言いがかりといえばそれまでなのですが)。
 蒸気機関も使われていないような世界で、近代以後の価値観を持った人がいないとは言いませんが、そこまでの天才ではないキャラクターが、普通に現代人と同じようなメンタルで、同じような言葉を使っていた時に、僕の中でその作品から急速にファンタジー感が失われていきました。彼の事は「とても優秀な人物なのだろうな」という事はとてもよく分かったのですが、残念ながらそこで「彼はフィクションの世界に用意された駒なのだな」という感じがしてしまったのです。

 あまり他の作品を貶すような事で褒めるのはよろしくないのでこの辺にしますが、とにかく「こことは全然違う世界のはずなのに、住んでいる住人のマインドが現代人と変わらない」というのは、僕としてはとても残念なのです。価値観は時代に大きく左右されます。衛生観念、金銭感覚(そもそも貨幣経済がどれくらい浸透しているのか)、生活習慣、それら全てはその環境から発生するもので、それらとちゃんと合致しているなら気にならないのですが、そこが無視されると、途端に冷めてしまうのです。

 多分この辺の自分のこだわりは、僕がグローランサ(TRPGルーンクエストの主要な背景世界)が大好きだからだという所に起因しているのかもしれません。グローランサはビジュアル的な、歴史的な、神話的な、あらゆる意味で「オリジナリティの塊」でした。そして全てに何かしらの土台として、現実世界のモチーフ(またはアイロニー)が埋め込まれていました。
 グローランサの住人は、自らが信奉する神と同じように考え、同じような行動をする事で、いつか自分たちも神に近づき、英雄となる事を夢見る人達です。
 僕はその世界に衝撃を受け、オーランシーやフマクティ達、トロールやドワーフ達の「我々とは一切相容れないキャラクターが確立している事」に憧れています。

 重要なのは実はビジュアルでも突飛な設定でもなんでもなく、たった一つの重要な嘘と、そしてそこに住まう人達がちゃんとその嘘(その世界からしたら、重要な規律)に従っているかどうか、なのです。

 「この大陸で、フィジカは悪い薬師だった」に登場する人物達は、もれなく完璧にその世界の規律から逸脱する事なく、彼らの役割を演じてくれています。前作「ひとつ海のパラスアテナ」でもこの辺が本当に見事に描写されていたので、これが氏の持ち味であり強みなのだと思います。地味で、とても大変な割にあんまり評価する人のいない部分なのですが、作品の「なんかわかんないけど良かった」感を一番増強してくれているのは、多分ここだと思うのです。
 化学調味料を使わない、煮干しやカツオ節から丁寧に出汁を取って、欠けたお米を外して、材料を均等に切り分け、魚の小骨を全て外し、丹念に下準備をした上で、丁寧に調理されて出された料理のような、味わい深い作品です。
 こういう作品が、もっと評価されるようになるといいなと思います。

 もうちょっと作品内容に触れておきましょうかね。
 乱暴に説明すると、ファンタジー世界で、女の子が主人公で、患者が主にモンスターのブラックジャックです。
 モンスターに関しての描写はとても細かく、ゲームで見知った相手でありながらも驚きを感じる、またはニヤリとする事が多いです。バジリスクとコカトリスの話なんかは一話目に持ってくるのに相応しいネタですよね。
 そして先ほどまでの内容と相反するような事書きますが、フィジカは作中で最も現代人に近いメンタルと知識を持っています。あくまでその世界で逸脱した存在である事の描写としての、というレベルですが。わからずやで古い考えを持ったアッシュと対称的で、それがこの作品の核となって話は進行します。世界観とキャラ造形が一体となったとても良い例だと思います。

 血湧き肉踊る戦闘とか、絶妙なエロスとかそういう濃い味付け、大きな盛りつけはされていませんが、出汁の効いた奥深い味わいのあるファンタジーです。ファンタジーに胃もたれ気味の人にも是非ご賞味頂きたい。

 この流れでファンタジーグルメ的作品だったら完璧だったんですけどそういう作品じゃありません。でも細かい料理の描写がすごくうまそうで腹が減る作品でもありますよ。ここもまた「出汁」が効いてます。
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