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バカは至高の褒め言葉
ちょっと署まで 
2008.06.09 Mon 23:13
「この人痴漢です!」
平日の朝。
いつものように混雑した電車の中で、一人の男が痴漢の疑いをかけられた。
被害者の女性は勇気を出して男の手をつかみ、周りの乗客の協力も得て、鉄道員につき出す。
「ちょ、ちょっと待ってください!僕じゃありませんよ!何を証拠に!」
男は突然のことに驚いて持っていたゲーム機を落としそうになりながらも、精一杯抵抗する。このままでは完全に自分が犯人扱いされてしまう。今まで築き上げてきた人生がこの一瞬で全て崩壊してしまいかねない。
「あー、まあちょっとこっちに来てもらえますか?」
あまりやる気のない鉄道警察員が奥へ二人を連れて行く。まあ大体こういう場合男の方が部が悪くなってしまうもので、どちらかというと適当な所で話をつけてやった事にした方が楽だとかそういう方向で説得してしまおうか、などと考えていたのだが、次の男の証言から話の方向はあらぬ方向へ曲がってしまう。
「違いますよ!絶対違います!僕は痴漢なんかしてません!証拠がありますから!!」
証拠がある、と口走った男を警察員と女性が同時に見る。まさかあの混雑の中で触っていない証拠などを出せるはずがない。しかし男は自信たっぷりに言ってのけた。にわかに信じられる話ではない。
「証拠って言っても、やってない事の証明なんてそれこそ悪魔の証明にも等しいじゃないですか」
「ありますよ!これを見てください!」
男は持っていたゲーム機の画面を二人の目の前につき出し、電源を入れた。
「えっ…!?何…っこれ…っ!」
そこにはほとんど地面すれすれから上を向いたアングルで、女性のスカートを映し出していた。もちろんアングルがアングルなので、スカートの中にあるものもしっかり映っていた。そしてスカートの、というよりは女性の尻に伸びた手も映されていた。
「ほら!これが!これが僕の足!そしてこれが彼女のお尻!この角度からこの触っている手がどうやって伸ばせますか!明らかに僕の逆の方向から手が出ているでしょう!大体僕は左手でこのゲーム機を持っていた!しかしこの痴漢の手は左手!明らかに僕が犯人ではない事の証拠でしょう!」
確かに画面に映っているスカートはこの女性のもので、映っているスーツはこの男のもの。その位置からすれば女性を触っている手は逆方向から出ている。そして女性も最初に掴んだ手は右手で、左手はゲーム機か何かを持っていた事は覚えていた。
「確かに…これは触っていない証拠にはなるでしょうが…この写真はどうやって…?」
「これですよ!」
男は自信満々に自分の足下を指さす。そこには男の左足があり、そこには当然男の靴があり、そしてそこには小さな機械がくくりつけられていた。よく見るとその機械の中央には小さな丸いものがついており、おそらくレンズか何かだろうという事はわかった。
「僕の左足のちょっとショットがこの光景をしっかりと映してくれたんです!ほら、僕は触ってなんかいない!間違いないでしょう!」
「そうですね。貴方はほぼ間違いなく触ってなんかいませんね」
「そうでしょう!そらみろ!男が全て女性を触ると思ったら大間違いだぞ!」
最初につき出された時とはうって変わって大きな態度になった男は女性に向かって大いばりで笑い、自分の無実を確信した。これほどまでに晴れやかな笑顔はそうそう見られるものではないだろう。間違いを指摘された女性は、先ほどからうつむいたまま何も喋らなかった。なにがしかのショックを受けていることは間違いない。
ひとしきり男が高笑いをした後に誰も言葉を続けることができず、しばらく沈黙が続いた。完全に空気は最初とは違うものに変化し、勝ち誇った顔の男は警察員と女性を交互に見ては不敵な笑みをこぼしていた。
「じゃあ、とりあえず…」
警察員が沈黙をやぶる。
「はいっ!」
ようやく解放される、そう思った男は1オクターブ高い声で返答した。
しかし警察員から発せられた言葉は男の期待したものとは違っていた。
「盗撮の現行犯で逮捕ということで」
「あ。」




…いや、こういう事件があったもので。ちょっとショットのカメラを長いケーブルで繋いで服の下を通してうまいこと靴に隠したらいけちゃうのかなーとか思って。カメラ持ってないんで直に挿さずにケーブルを経由して動くのかとかは知りませんけどよい子のみんなは真似しないように。万が一実行してもここのブログ読んで思いついたとか喋らないように。あとこんな事書いちゃったんで僕は絶対にちょっとショットが買えなくなりました。買う気もなかったけど。

盗撮も痴漢行為扱いされるみたいです
category:小咄
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腐女子的太閤記 
2008.02.06 Wed 22:02
 信長はある冬の日、女部屋から出ようと草履を履くと、足が妙に暖かい。うっすらと雪化粧を始めたこの寒空の下で、草履だけが暖かくなっていたのだ。
「ぬう、サルめ、わしの草履に腰掛けておったな!」
「恐れながら、断じて腰掛けてなどおりませぬ」
「ならばなぜわしの草履は暖かいのだ!」
「それがしが背中に入れて温めておりました」
「尻の方が良かったのにー!!」
「アッー!」
category:小咄
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小咄・タイムマシーン 
2007.09.08 Sat 20:38
再録小咄その2。冒頭のやり取りだけちょっと追記してあります。

○「よう、どうしたんだよ急に呼び出して。」
●「ああ、あの、あのな!あの、あの!」
○「落ち着けよ。ほらお茶買ってきてやったから」
●「あああ、あり、あり、……んはあ……落ち着いた」
○「あとで150円払えよ。……で、どうかしたのか?」
●「ああ!そう!そうなんだよ!あのさ!あのさ!俺、ついにやったんだよ!」
○「…強盗?」
●「やってねえよ!…ついに出来たんだよ!」
○「子ども?」
●「独身だっつの!」
○「ひと夏の思い出?」
●「もう秋だよ!」
○「じゃあ何なんだよ?」
●「ふっふっふ。俺が作り上げたのは…タイムマシーンでーす!」
○「あ、そ。じゃあね。」
●「帰るなよー!ここからが本番だろぁ!?も普通タイムマシーン出来たとか言われたら『マジで?!』とかそういう反応じゃねえのか。なあオイ。」
○「いや、別に。信じてないし。」
●「信じろよ!本当に出来たんだっつうの!タイムマシーン!タァイムマスィーン!」
○「リアルに発音しなくていいから。」
●「航時機。」
○「和訳しなくていいから。」
●「信じろよー頼むからぁー。」
○「借りた金返すのが惜しくなってそういうキャラを演じ始めたとかそういう。」
●「そんな訳ねえだろ!ちゃんと返すよ…。ほら、五千円!」
○「マジで?!」
●「そこで驚くなよなーもう。まあ、とにかくさ、タイムマシーンが出来たのですヨ!」
○「ふーん」
●「なんでそっちは冷静なんだよ!もう本当なんだって!信じろよ!」
○「それ、ちゃんと使えるの?」
●「ああ、まあな。まだ試してないけど。」
○「出来てねえじゃん!」
●「出来たんだって!理論上は出来たんだってば!いや、ほら、こういう実験の時って誰か証人が必要じゃん?」
○「ああ、失敗して帰らなくなった時のためにな。あの人は立派な最期を遂げました…。」
●「殺すなよ!違うよ成功した時に喜びを分かち合う人だろ!その時の出来事を手記にして出版して印税が。」
○「ああ暴露本?」
●「暴露じゃねえよ!成功までの軌跡を書くんだよ!」
○「いいよ、面倒臭いから。…で、これから、それ、使う訳?」
●「そうだよ。」
○「今ならまだ間に合うぜ?」
●「何が?」
○「今ならまだ嘘でしたって言っても俺怒らないから。」
●「嘘じゃねえっつうの!マジで!リアルに!完成!」
○「ん、じゃあ、いいよ。とにかく、使ってみろよ。」
●「オッケー!行ってくる!…スイッチ、オン!ウィーンバチバチバチ、ブシュー。ただいま!」
○「早いなオイ!」
●「ま、タイムマシーンだからな。こう、時間の流れがあるだろ、で、俺だけ、その流れからタイムマシーンでヒョッと抜けた訳だ。あくまで俺はこの時間の流れにいる人間だから、帰りはその抜けた所に戻らなきゃいけない訳。」
○「へえー。上手いね。こじつけるの。」
●「違う本当に行って来たんだよ!」
○「じゃあ、どこ行って来たんだよ。」
●「おお、ちゃんと行ってきたぜ?色々な所を回ってきたさ。例えばほんの少し未来のこの部屋に行ってきた。」
○「へえー。じゃこれから何が起こるのかわかったんだ。」
●「うん。10分後の世界では、お前が俺に土下座してた。その後二人で飯を食いに出てた。」
○「しねえよ!土下座なんか。…まあ、飯を食うのは時間的にはあり得るけどな。さっきの理屈よりは随分慎重だな。」
●「まだ信じてないだろ。本当に土下座してたんだって!観て来たの!」
○「わかっちまった以上絶対やんねえ。あと5分土下座しなきゃいいんだろ。楽勝じゃん。未来を変える男、なんつってな。」
●「未来は変えられないんだぜ。ほら、あと3分。何だか無性に俺に土下座したくなってこない?」
○「なんねえ。」
●「んー、例えば急に過去の悪事を思い出して俺に謝りたくなるとか。」
○「お前に悪事なんか働いてないって。」
●「あるだろ少しくらい!えーと、例えばー、お前の車の合鍵を無断で作ってお前が車止めて俺の家に居る間にこっそり車を駐車禁止の場所に止めてみたりとか。」
○「あれお前か!いくら取られたと思ってんだよ!てゆうか犯罪じゃねえか!うわマジでムカつく!あぁもう絶対土下座なんかする可能性消えたね!今ので!むしろお前が今土下座して俺に謝れ!」
●「ああっしまった。」
○「しまったじゃねえよ!待てこの野…」
●「…どうした?」
○「うごくな!!…コンタクトが落ちた。」
●「何だと?!」
○「う、動くなよ、動くなよ、そのままの姿勢で…。えーと、レンズ、レンズ…。」
●「ぽーん。時間でーす。」
○「あ、ああ!土下座してるうう!」
●「ほら、俺の言った通りだったろ?ちゃーんと、タイムマシーンで見てきた通りだ。」
○「…まあ、そうな。」
●「まだ信じてないのか!」
○「時間を見ながら俺を挑発して何か落とさせるという作戦なら、やれない事はないよな…。まあ都合良く落ちるかどうかはわからんけど。」
●「あ、じゃあ車の話は」
○「それは信じる。」
●「それもついでに疑えよ。」
○「語るに落ちたな!」
●「えっ?!」
○「今の発言で全部嘘って事が証明されたようなもんだぜ!」
●「ち、違う!違うんだ!本当に、…本当に、嘘ならいいなあって、今は思ってる。」
○「ど、どうしたんだ?急に。」
●「いや、俺の作ったタイムマシーンはさ、そんなに精度の高いもんじゃないんだよ。そんな10分後なんて気楽に飛べるような乗り物じゃないんだ。」
○「そ、そういうもんなのか?」
●「ああ。んー、スペースシャトルでお前の家にここから飛ぶようなもんかな。」
○「大掛かりだなオイ!」
●「うん。大体100年くらい一気に飛ばないといけないんだよ。まだ、開発途中だし、乗り心地も悪いし、リクライニングシートもないし。」
○「いやそれは別にいらないだろう。」
●「それで、今回は一度100年くらい昔に戻って、すぐに10分後の世界に行って、帰るためにもう一度100年くらい昔に戻ってから来たんだけどさ。」
○「中国行くのにシンガポール経由するようなもんか。」
●「ああ、まあ、そんな感じ。それで、短時間に過去の世界に二度も行ってしまったせいで、ちょっと、過去を変えてきたかもしれないんだよ。時空間の歪みが到着地点に影響を与えて…」
○「ままま、まあ、理屈はいいよどうせわかんないから。とにかく、お前が未来を変えたかもしれないって事な?」
●「あ、ああ…。」
○「でもさ、お前が出て行ってから帰ってくるまで、ほんの数秒しかなかったけど、別に何かが変わったようには感じなかったぜ?」
●「そ、そうか?」
○「大体そんな、SF小説じゃあるまいし、過去を変えるなんて出来っこないって!」
●「お前まだ信じてないのか!」
○「いやいや信じる信じる。さあ、とりあえずもういいから飯行こう、な。そろそろそういう未来だったんだろ?」
●「いや、本当の話なんだってば!信じろって!」
○「はいはい、信じる信じる。さ、行こ行こ。」
●「う、うん。わかったよ…。」

………。

○「あー食った食った。そろそろ出るか。」
●「ああ、そうだな。」
○「面白いもん見せてもらったし、ここは俺が払ってやるよ。さっき返してもらった金もあるしな。」
●「え、あ、悪いなあ!」

ウェイトレス「ありがとうございます。お二人合計で3260両になります!」
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小咄・結婚式 
2007.09.07 Fri 19:35
久しぶりに再録。書くことがなかったので。昔よく小咄の前編だけ書いて放置するという事をやってたのですが読み返したら自分で続きが気になって探してしまいましたがそもそも書いてませんでした。まあ誰も読みたいとか言ってこなかったんでそのままですが。

○「結婚式、行って来たんだよ。まあ、二次会なんだけどさ。」
●「へえー。…どうだった?」
○「ん、楽しかったよ。でさあ、新郎から聞いたんだけど、結婚式は人前式だったんだってさ。」
●「人前式?何それ?」
○「んーと、普通結婚式って、和式でも洋式でも神様に誓いを立てる訳じゃない?それを、参加者の前で誓いを立てる方式なんだって。神前じゃなくて人前って訳。」
●「へえー。人前式かぁー…。」
○「ん、何なに?結婚の予定でもあんの?ねえ?」
●「ないよ別に!」
○「またまたー。そんな事言って家に帰ったら誰か待ってたりするんじゃないの?…縛られて。」
●「待てよおい!犯罪者じゃねえかソレ!」
○「帰って来たお前を見て『ほはえりなはい!はなは!』って」
●「さるぐつわまでしてんのかよ!それでいて『あなた!』って!愛されてんのかよ!」
○「子供も同様に。『はふ、はふー!』」
●「死んじゃうよ子供!てゆうかなんで子供いるんだよ結婚してないのに!」
○「おばあちゃんも『ほはえひ、ははひ』」
●「家族総出かよ!どんな家庭だよ!」
○「タイトルは3年B組緊縛先生」
●「何だよタイトルって!ドラマかよ!」
○「月9で。」
●「やんねえよそんなドラマ!てゆうか放送できねえよ!」
○「んで結婚式なんだけどさ。」
●「うん。」
○「お前、結婚するなら、何式がいい?」
●「俺はー、なんか、チャペルウェディングってえの?ああいう、こう、チャラチャラしたようなのはちょっとな。ちょっと人と違うのがあったらいいなあ。」
○「あー、お前らしいなあ。」
●「何か、そういうの、ねえかな。」
○「ヤコブ式。」
●「何だよそれ。何式だよ。」
○「だからヤコブ式。知らないの?」
●「知るかよ。どんな様式なんだよ。」
○「えー、まず新郎が高い橋の上に立って、長ーいゴムをくくりつけて。」
●「飛び下りるとか言うんじゃねえだろうな。」
○「何だ知ってんじゃん!」
●「知ってるじゃねえよ!それバンジージャンプじゃねえか!」
○「違うって!まだ続きがあるんだよ!…新郎がな、橋の上から飛び下りて。」
●「やっぱりバンジーじゃねえか。」
○「…地上にいる新婦の指に指輪をはめるんだよ。」
●「出来るかそんな事!危ねえよ!」
○「これが一発で出来たカップルにのみ永遠の愛が約束されるという伝説の様式。神父も新郎と一緒に飛び下りながら愛の誓いを聞かなきゃならないから命がけ。」
●「神父が一番気の毒だよ!」
○「年に二、三回神父変わってるから。」
●「死んでるじゃん!怖いって!」
○「タイトルは3年B組跳躍先生」
●「ドラマにすんなってば!」
○「木曜夜9時から。」
●「人の話聞けよ!」
○「最終回は90分スペシャルで。」
●「つうかそれ本当にやった奴いんの?いたら相当トンでる奴だと思うが。」
○「わー。何、シャレ?うまいネ!」
●「ち、違うって!そこは突っ込まなくていいから!…で、いんの、ソレ?」
○「いるよ。俺知ってるもん。ちゃんと指輪もはめられた。」
●「へえー。いるところにゃいるもんだねえ。…お前、とか言わないよな?」
○「馬鹿な事言うなよ。俺まだ独身だぜ?」
●「いや、うん。それは知ってるんだけど。なんか、お前ならやれそうだし。飛び具合が。」
○「違うって。伝説の様式というだけあってここ二十年くらいの間はひと組しか成功してないんだ。」
●「ふうん、で、誰?」
○「俺の親父。」
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ネーミング 
2006.11.06 Mon 22:26
電車に乗っていたカップルの会話。

女「あー、猫飼いたいなー」
男「ペットダメじゃん、お前のアパート」
女「そうだけどさー。ねえ、猫飼うとしたらどんな名前がいいかな」

しばらく男が黙って

男「ゴンズイ」
女「もっと可愛いやつ」
男「手ぶら天国」
女「意味わかんないし」
男「田中」
女「誰だよ」
男「注文多いなあ。
女「もっと猫っぽくさー」
男「んー…」

またしばらく男が黙ったあと口を開いた。

男「ダルタニャン」
女「欧米か」
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前世占い 
2006.09.01 Fri 17:12
 飲み屋のカウンターで隣に座っていた物憂気な女性が僕に話し掛けてきた。
「前世って、信じますか?」
 宗教の勧誘が始まるのだろうか。至って無宗教の私はこの手の話にひっかかった事もないし無視することにしている。
 しかし話し掛けて来た時に目を合わせてしまった。しまった。相手は私の目を見たまま、その大きな目をうっすらと細めて微笑んだ。もはや合った目を逸らす事も出来ず、返答してしまった。
「いや、あまり…信じてはいませんね」
 女性はその潤んだような瞳の先を私に合わせたまま、少しだけ首をかしげ、そして少しだけ顔を私に近づいて話を続けた。ああ、ヤバいかも、と軽く後悔をすると同時に、こんな人と話が出来るなら多少のリスクも甘んじて受けてみようという気にもなった。一般的にはそれをカモと呼ぶのだが。
「私の前世、蛙なんです」
 …カエル?
 それが雨の日によく鳴く両生類を差す言葉であることを理解するのに数秒を要したのは、綺麗な女性の口から、しかも前世という話からいきなり両生類の一般名詞が出てくるというのがどうしても繋がらなかったからだった。普通前世とかって戦国大名とか海外の貴族とか、とにかく人なんじゃないのか?最近の前世占いはもう森羅万象あらゆるものが対象になっているのか?
 その数秒の間を、視線をあげてふらふらさせながら考え、答えが出たところで女性に視線を戻す。が、目を見たらまた自分がどうなってしまうかわからなかったのであえて視線を下げてみたところ、胸元の大きく開いた服と、そのせいでやたら強調された、正中線に出来ている見事な谷間の線に気付いてしまい、こっちはこっちで自分がどうなってしまうかわからなかったので結局また目が泳いでしまった。まだウィスキーの残っていたグラスを手に取り、少しだけ口に含む。視線をグラスに集中することで何とか落ち着き、口の中の酒を飲み込んでから話を続けた。
「蛙というと、アマガエルとか、トノサマガエルとか」
「はい。なにガエルかまではちょっとわからないんですけど…」
 わりと小洒落た店のカウンターで背の高いストゥールに座った男女が交わす会話としてはこれほど似つかわしくないものもないが、そもそも前世を信じていない前提で話を振られ、しかもカエルでございますと言われて気の利いた返しが出来るようなら私は芸人にでもなっているだろう。もう次に何を言い出すのかまったく予想出来ない。「だからお前は死ね」とか言われても納得しかねない。いや死ぬのは全力でお断りするが。
「昔から変な口癖があるんです」
「口癖?…どんな?」
 長いまつげで瞳が隠れるくらい顔を落とし、少し迷っているような表情を見せたが、ゆっくりと私の方を向き直し、やがて真っ赤な唇が、動いた。

「ゲロゲーロ」
「それ蛙じゃなくて青空球児師匠です」




(注:師匠生きてます)
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